Shota’s Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

パリ・ルーヴル美術館の秘密 ほか

「連想の道具としてのドキュメンタリー」

 子供の頃、わざと迷子になってみようとした経験はないだろうか。毎日通る道から一本入って、知らない景色を楽しむ。知っている景色をいつもと違う角度で見るのも楽しい。
 筋のないドキュメンタリー映画を観ていると、頭の中で同じような遊びをしたくなる。目に入るものから、ふだんとはまったく違う手順でどんどん連想を重ねていくのだ。
 『パリ・ルーヴル美術館の秘密』は、ただ淡々と、あの巨大美術館の裏側を支える人々を描く。筋はなく、説明もない(ついでに、邦題に付け加えられた「秘密」なんてものもどこにもない)。監督は『ぼくの好きな先生』で「楽しめる記録映画」を実現させたニコラ・フィリベール。美術品の修復や運搬などのいかにもそれらしい作業から、急病人の応急措置の練習まで、細々としたシーンの積み重ねを目の前にして、観る者が連想するのは意外とくだらないことだったりする。百年前も二百年前も同じ場所で同じ作業をしている人がいたんだろうなあ。この宮殿の中でヘマをして殺された人はいるだろうか。社員食堂に並んだ大皿料理、やっぱりこれもフランス料理というのかな。……
 百歳を越える女性監督、レニ・リーフェンシュタールが撮った『ワンダー・アンダー・ウォーター 原色の海』は、色鮮やかな海底世界を静かに映し出す。思考の流れを阻むようなナレーションも音楽もない。だから観る者は思う、このカラフルで異形の生物たちは何があっても食べたくないぞ、しかし食欲はくすぐらない深海魚たちが、妙に性欲を刺激するような気がするのは何故だろう。……
 忙しい日々の中で手軽に違う世界を楽しみたいのなら、『チャーリーズ・エンジェル』を観るのがいい。作り手が作ったとおりの異世界を楽しむことができる。また、記録映画を観ながら、「監督の意図は」「主題は」などと考えるのも悪くはない。むしろそちらのほうが誉められた鑑賞者だろう。しかし、誰かの考えた道筋をなぞって歩くより(そんなの仕事で毎日やっている!)、映像をただ自分勝手に思考を飛ばす道具として使うほうが、鑑賞法としては贅沢であるはずだ。
 付録の3Dメガネによって疑似立体映像を楽しめる『飛び出す! サファリ!』シリーズは、説明音声や筋立てがある分そんな道具としては使いにくいが、子供にボーッと見せるにはちょうどいい。脚本家の書いたPRGのストーリーを再現させるより、コモドオオトカゲの皮膚が硬そうなのにダランとたるんでいることに意味もなくドキドキさせて、ほどよく生き悩む夢想家の子を育てたい。

【CDジャーナル 2004年01月号掲載】