Shota’s Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

泉麻人の昭和ニュース劇場

 今年61になる母が初めて“デコレーション・ケーキ”というものを知ったのは、昭和36年の冬、友達の家のクリスマス会でだったという。見たこともない砂糖菓子のバラや、生クリームの波模様。どうやって食べるものかと息を呑んで見つめていたら、しばらく思案顔だったその家のおばさん、表面のデコレーションを包丁の腹で全部平らにならし、それからみんなに切り分けたそうだ。「さ、これで公平だよ」と。
 その母がぼくら兄妹につくってくれた料理も、今思えばかなりヘンテコなものだった。レトルトのソースも調味料セットもない時代、子供たちの要求に負けて見よう見まねで作ったシチューやハヤシライスは、子供心にも「ホントにこれでいいの?」というシロモノ。しかし母は、ちょっと楽しそうだった。
 昭和。情報の少なさの中で、みんな試行錯誤しながら生活していた時代だった。
 『泉麻人の昭和ニュース劇場』は、昭和30年代に劇場で流されたニュース映像から64本を選んでまとめたものである。「夢の超特急」「コレラ大騒動」「危ないプロレス遊び」「フラフープ大流行」……当時は大事件だっただろうことが、今観るとどこか呑気で微笑ましい。路上駐車が禁止になったというニュースでは、警官は車のフロントガラスに手書きの警告書をベッタリとノリ付けしている。それじゃ単なる嫌がらせだろう……。
 現代では“不適切”とされる言い回しもあちこちにあり、今なら動物愛護協会や人権団体が眉根にしわを寄せそうなニュースも、ほのぼのと語られる。ヨガなんか“インド魔術”扱いである。何につけ“専門家”なんてものがあまりいなくて、誰もまだ“正しいこと”を知らなかったのだろう。「プロレス遊びは危ないよ」と訴えるのは、教育学者ではない、力道山だ。
 世は“昭和レトロブーム”なのだそうだ。バンダイはアナログのミニ・レコードと専用プレーヤー“8盤”を発売し、昭和の懐かし文化を題材にした食玩は各社が競うようにして売り出している。
 人は、昭和になにを求めるのか。
 単にちゃぶ台や白黒テレビを懐かしんでみたいのではないだろう。不便な昭和の生活にあって、洗練された平成の生活にないもの……今ぼくらが欲しいのは、結果を知らないまま、自分で右往左往し、試行錯誤してみる自由なのではないだろうか。  

【CDジャーナル 2004年06月号掲載】