Shota’s Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

Mr.インクレディブル

 “生理的に快感となる映像”というものがあること、ピクサー社は熟知しているように見える。この時代に今さらCGの映像美を誉めるのも気が引けるが、「走る」「滑る」「飛ぶ」などの基本的な動作が、とにかく観ていて「気持ちいい!!」のである。

 そんな見事なCGで描かれるのは、アメコミのヒーロー物、スパイ物をごちゃ混ぜにしたクラシックな世界。007を思わせるBGMといい、60年代風の絵面といい、最新技術とのギャップがまたマニアックで楽しい。

 舞台は“昔の近未来”的なアメリカ。主人公ボブは、かつて“Mr.インクレディブル”と名乗り、人々の尊敬と憧れを集めるスーパーヒーローの一人だった。同じく正義の味方の“イラスティガール”と結婚し、ともに世界の平和を守り続ける──はずだったのに──彼らが正義のために戦うたび、街は破壊され、ケガ人も出る。さすが訴訟大国アメリカ、スーパーヒーローたちに対する損害賠償請求が相次いで、ついに政府はヒーローたちの活動を封印させてしまう。

 15年後、保険会社の勤め人に成り下がったボブ。安物の小型車に身を縮めて乗り、会社では上司にお小言を言われる毎日。妻も主婦業に専念しつつ垂れたおしりを気にし、子供たちは“ふつうのフリ”をするのにストレスをためている。そんな“元ヒーロー”の元に、ある日謎の女からの招待状が届いて──。

 原題が「The Incredibles(インクレディブル一家)」であるとおり、根底にあるのは“家族の物語”である。“特殊な一家のふつうの生活”──内気な長女は姿を消したりシールドを張ったりできるし、長男は目にも止まらぬ早さで動ける(この二人が特殊能力を使ってする姉弟ゲンカは痛快!)。さらに家族を取り巻く脇役も個性派ぞろいで、空中につくった氷の道を滑走するスーパーヒーロー“フロゾン”など、細やかな部分での疾走感、爽快感の作り込みがまたいい。(“脇役のスーパーヒーロー”という存在もパラドクシカルでおかしい。アメコミのパロディとしての奥行きを感じる)

 『トイ・ストーリー』の大ヒット以降、『モンスターズ・インク』『ファインディング・ニモ』、そして本作と着実にヒットを飛ばしてきたピクサー社(制作)とディズニー社(配給)だが、次回作「Cars」を最後に契約を終了する。“最高のパートナー”から一転“最強のライバル”となる両社、ともに偉大な実績を持つだけに、今後が楽しみだ。

 最後に、DVD化に際して観た日本語版で感心したことを二つ。まず、映像の中の新聞記事などが、必要な部分では日本語化されている。これはCGならではの恩恵であり、ピクサー社のこだわりであろう。もう一つ、三浦友和黒木瞳宮迫博之らによる日本語吹き替えが、想像以上に素晴らしい。話題づくりのための豪華キャストかと思いきや、さすがの芸達者ぶりだった。

【CDジャーナル 2005年06月号掲載】