Shota’s Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

エターナル・サンシャイン

 たとえば少年時代の屈辱的な思い出、壊れた恋や死んだ子どものこと。「いっそ消し去れたらどんなに楽か」と思うような記憶は、誰にでもあるものだろう。それが現実に可能だとしたら(つまり「消したい記憶を本当に消せる」テクノロジーがあったら)、どうなるか。下手をすればアイデア一発のSF小作になる素材を、映像操作に長けた監督と、アイデア調理の上手な脚本家が丁寧に味付けして、繊細なラブ・ストーリーに仕上げた。

 美人だが破天荒な女と、退屈な人間を自認する男が出会い、恋をする──のだが、物語は二人の恋が終わったところから始まる。主人公ジョエルは、ケンカ別れしたばかりの恋人・クレメンタインが、自分に関する記憶を消去してしまったことを知るのだ。悲嘆にくれた挙げ句に彼が出した結論は、「自分同じ施術を受けて、彼女に関する記憶を消す」というもの。ところが、睡眠薬で眠って施術を待つ彼のもとにやってきたのは、いいかげんでクレイジーな技術者たちだった。夢うつつに彼らの声を聞きながら、ジョエルは消される記憶の中を逃げ続け、そして「失ってはいけないもの」を知る──。

 ビョークカイリー・ミノーグのPVで脚光を浴びたミシェル・ゴンドリー監督は、映像の細部に騙し絵のような“非現実感”を入れるのがうまく、本作でも時間軸の交錯する“記憶の中の世界”を映像化する際にそのテクニックを発揮。また『マルコヴィッチの穴』で奇抜な発想を脚本化したチャーリー・カウフマンは、本作では“奇抜なだけでない”しっとりとした物語運びを見せる。この両者が競い合うようにして自分の技量を使った本作は、一度観ると感傷的になるが、何度も観ているとその細部の作り込みに感心する。

タイタニック』『ロード・オブ・ザ・リング』『スパーダーマン』といった近年の超話題作の主演者たちが、観客の期待を裏切る役柄で出演しているのも特筆すべきだろう。

【CDジャーナル 2005年11月号掲載】