Shota’s Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

チャーリーとチョコレート工場

 子どもの頃、『チョコレート工場の秘密』という本に心奪われた人は多いはずだ(タイトルからしてなんと魅力的なことか!)。世界でたった5枚しかない当たり券入りのチョコを引き当てた5人の子どもが、不思議なチョコレート工場に招待される──64年出版のこの本は、著者ロアルド・ダールが、自分の子どものために創ったお話だという。確かに行儀が悪かったり偉そうだったりの“悪い子”たちが無惨なお仕置きを受け、“いい子”の主人公だけが最後に幸せを手に入れるというこの物語は、ある意味道徳教育向き。だが、この話が40年以上にわたって子どもたちを夢中にさせてきたのは、道徳とは真逆の部分だ。子どもは、大人が期待するよりはるかにブラックでシニカルなもの。“悪い子”たちがハチャメチャなお仕置きを受けている場面が、痛快でたまらないのだ。

 奇才ティム・バートン監督の手によるこの『チャーリーとチョコレート工場』は、原作の魅力をほぼ忠実に映像化したもの。工場の中を流れるチョコレートの川は、本物のチョコ20万ガロン(!)を使ってつくられ、甘く濃い匂いが漂ってきそう。映画全体を彩るサイケな色彩も、ウンパ・ルンパという小人たちの歌と踊りも、子どもが声をあげて喜びそうなキテレツさ。さらに“いくら噛んでも味のなくならないガム”や“空飛ぶエレベータ”といったアイテム! 空想癖のあるやっかいな子どもを量産するにはもってこい!

 唯一原作と違うのは、“家族”に関する逡巡が大きな柱として付加されていること。若い頃から“変人”“オタク”といわれ続けた孤独なバートン監督が、近年家庭を持ったことの影響だろう(お相手は本作にも母親役で出演する女優ヘレナ・ボナム・カーター)。

 同じジョニー・デップを主演にした出世作シザーハンズ』からのファンには“最近大衆路線に走りすぎ”と不評だった同監督の、一皮むけての原点回帰だ。

【CDジャーナル 2006年02月号掲載】