Shota’s Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

ヴェラ・ドレイク

1950年のイギリス、労働者階級の人々が暮らす街は重く湿った空気の中に沈んでいる。そんな下町を明るくしているのが、ヴェラ・ドレイクという世話焼きのおばさん。小動物のようによく動き、家族や近所の人々を励まして回る、人望の厚い彼女──が、ある日突然逮捕され、投獄される。彼女は、家族にも内緒で、非合法の堕胎行為を繰り返していたのだ。“困っている人を助けたい”一心での行動だったが、当時、中絶は重罪。突然“犯罪者”となった彼女と、家族との軋轢、そして滲み出てくる信頼や理解。法律より深い部分にある“絆”を感じさせて美しい。挿話として、抜け道のように存在していた上流階級の中絶も描かれる。何が善で何が悪かを考える契機に。

【CDジャーナル 2006年04月号掲載】