Shota’s Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

キンキーブーツ

 倒産寸前の靴工場が“女装用セクシー・ブーツ”で起死回生する、実話を元にしたコメディである。『フル・モンティ』にしろ『カレンダー・ガールズ』にしろ、この手のイギリス映画は小粒だけれど確実に楽しい。片田舎の平凡でちょっとダメな人たちが、逆境の中で奇抜な策を思いつき(男性ストリップの次が婦人会のヌード・カレンダーで、今度は女装ブーツだ)、周囲の偏見に苦しみつつも次第に応援されるようになり、自らも成長して──と、ここまで書いてもネタバレだと怒られることはあるまい。結末は最初から分かっている。そこに至るまでの苦労やにじみ出る人間性が、楽しくて可笑しいのだ。

 舞台となるのは、伝統はあるが倒産寸前の靴工場。突然の父の死でその経営を引き継ぐことになった青年チャーリーは、もともと優柔不断な性格で、クビを切る相手にまで「どうしたらいい?」と泣きつく始末。転機となるのは、ロンドンの夜を飾るドラッグ・クイーンのローラとの出会いだった。彼女が男の大足にも似合うセクシーなブーツを探していると知ったチャーリーは、なんとこの“キンキー(奇妙な、変態の)ブーツ”という超ニッチ市場に社運を託すことを決める──。

 「ドラッグ・クイーンがハートフル・コメディの脇役に回る時代になったか!」という点も感慨深い。15年ほど前、京都の地下のクラブで、下品なほど濃いメイクに妖艶な衣装で歌う大男を観たとき、「なにこれ、ナマハゲ!?」と衝撃を受けたことを思い出す。『プリシラ』('94)がヒットしたあたりで“ドラッグ・クイーン”という言葉を覚えたが、世間に認知されたとまでは言えず、『3人のエンジェル』('95)でも『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』('01)でも、その存在の哀しさや可笑しさは主役としてじっくり描かねば理解されなかった。『コニー&カーラ』('04)くらいからやっと主題にすえる必要がないとされるようになり、今回は正々堂々の脇役である。時代は変わり、今や日本のクラブでクイーンたちを見ることも珍しくなくなった。

 ちなみに東京のドラッグ・クイーンたちが御用達の店は、新宿三丁目の巨大手芸店「オカダヤ」だそう。既製のドレスが体に合わない彼女らは、ここで売られる服地やビーズやスパンコールで、舞台衣装を手作りするのだと聞いた。日本にはまだまだ余ってるぞ、未開拓のニッチ市場。

【CDジャーナル 2006年09月号掲載】