Shota’s Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

王の男

 韓国史上最大の暴君として知られるヨンサングン(1476〜1506)。朝鮮王朝の正統な継承者として生まれながら、幼少時から粗暴で偏屈な性格を恐れられ、享楽的でかつ残虐な政治を行ったとされる。由緒ある寺院を妓生(宮仕えの芸者)の養成所に変え、夜毎の饗宴を楽しむ一方で、自分に逆らうものは容赦なく惨殺していく──そんな実在の王を、架空の旅芸人の目を通して“愛に飢えた狂気の人”として描き直したのが本作である。

 韓国の人々にとっては語り尽くされた題材であるはずが、2006年の韓国の映画賞を総なめにするほどの人気となったのは、美貌の旅芸人コンギルの魅力に拠るところが大きい。女と見まごうばかりの白い肌に切れ長の目、肝の据わった芸。加えて、色彩豊かな衣装や舞台、荘厳な宮廷の有り様と下卑た欲望の入り混じった物語運び。史実とフィクションの組み合わせ方も緻密だ。

 物語は、女装の美青年コンギルとその相棒チャンセンが、片田舎の祭りで下品な芸を披露する場面から始まる。退廃的な王をからかう寸劇で話題となった二人は都を目指し、なんと王の目前で寸劇を演じることに。最初は気まぐれで賎民の芸を笑っていた王が、いつしかコンギルの冷めた美貌の中に宿る悲しさと、自分の孤独とを重ね始めて──。

 一つの文化で何百年と語り継がれてきた物語の重み。それは不思議と、どの文化でも似ているもの。本作からシェークスピアを連想する人も多かろうし、権力欲と猜疑心と性欲が同居する様など、洋の東西を問わず、他の“暴君”たちとの共通性を見る者もいるだろう。また、現在の日本につながる文化の萌芽が画面のあちこちで見られるのも興味深い。

 なお本作では描かれていないが、ヨンサングンは後に臣下の反逆によって王位を追われ、30歳で頓死。かわって即位したのが異母弟のチュンジョンで、ドラマ『チャングムの誓い』の主人公が仕える王である。こうして歴史は巡ってゆく。

【CDジャーナル 2007年024月号掲載】