Shota’s Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

華麗なる恋の舞台で

 女の業を描くのに、女優ほどおあつらえむきの職業はない。サマセット・モームの長編小説『劇場』の古典的な世界を下敷きに、40代半ばとなってさらに貫禄をつけた演技派アネット・ベニングが“大女優”を演じる。本作でゴールデングローブ賞主演女優賞に輝いたのも納得の、華々しい怪演である。

 舞台は1938年、イギリス。第二次大戦を翌年に控え、最後の享楽を味わうことができた時代だ。ロンドン随一の舞台女優として名を馳せるジュリアは、豪奢で華麗な上流社会にあって、実は苛立っていた。単調で退屈な毎日、色褪せた人間関係、容色の衰えへの恐怖。しかし、親子ほども年の違うアメリカ人青年と出逢い恋に落ちたことで、彼女のすべてが変わる──と、粗筋はありがちな“中年女の恋物語”をなぞるのだが、そこはさすがに大女優。少女のようにはしゃぐのも、女王のように気高く振る舞うのも思いのまま、彼女の本心がどこにあるのか、観客には分からないのである。いや、ジュリア本人も分からないのかもしれない。自分が本気で恋をしているのか、芸の肥やしとするために己をも騙しているのか。

 物語は定石どおり、若い恋人の裏切りへと続く。野暮ったいが若さのある新人女優に恋人を奪われ、嫉妬に狂った(ように見える)ジュリアは、冷静を装いつつ、その恋敵に“女優ならではの手段で”手ひどいお返しをする──。ジュリアは、復讐の準備のためにさまざまな演技を重ね、さらに劇中劇で別の人物を演じる。ジュリアと劇中人物の感情が複雑にからみあい、うずまき、シンクロし、痛快なラストを迎える……って、アネット・ベニングはいったい何重の演技をしているのか!

 優雅さの裏の激しい気性やプライド、そして欲望。本来ならば見苦しいもののはずなのに、ここまで徹底して演じられると気持ちがいい。お見事。

【CDジャーナル 2007年10月号掲載】