Shota’s Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

やじきた道中てれすこ

 本気で惚れたのはおまえさんだけ──と旦那衆を騙しまくり、バレたらバレたで「ああ騙したよ、女郎は騙しますって看板上げて商売してんだい!」と言い放つ花魁のお喜乃(小泉今日子)。お喜乃に想いを寄せ、いいように使われている粗忽者の弥次さん(中村勘三郎)。ふだんは小心者だが酒を飲むと大暴れする、売れない役者の喜多さん(柄本明)。お喜乃が足抜けするのに付き合って、三人で江戸を出ることになるが──。

 数ある弥次喜多ものと同じく雑多で賑やかな珍道中を楽しむための作品なのだが、意外にも印象に残るのはその“言葉”の美しさ。「てれすこ」「狸賽」「野晒し」などの古典落語を物語に組み入れており(この三つは予習を推奨)、やはり落語のように何百年単位で練り固められた言語文化は侮れないなあとしみじみ思う。冒頭に挙げたお喜乃の啖呵、勘三郎の流れるような江戸弁、随所にある売り言葉に買い言葉……日本人の耳にはその響きだけでも快感なのである。「右や左の旦那様〜」という物乞いの言い回しさえも、だ。

 同じように古典落語をもとにした遊郭映画に『幕末太陽傳』(昭和32年川島雄三監督、フランキー堺主演)があり、そのDVD解説の中で立川志らくが“落語は物語でなく、どうでもいいような人間の弱さや馬鹿馬鹿しさを楽しむもの”と言っている(超意訳)。その意味でも本作は成功、粗筋だけだと「なんじゃそら!?」というような物語が、観るとたまらなく愉快なのだ。

 “お江戸ブーム”といわれるここ数年、映画だけでも『真夜中の弥次さん喜多さん』『舞妓Haaaan!!!』『さくらん』などの近親種が並び出ており、食傷気味の人もいるだろう。本稿執筆は劇場公開前で、興行成績がどうなるかは分からない。だが後世からみたとき、このブームの真打ちとされるのは、たぶん本作ではないか。今では日本映画の代表的名作とされる前述の『幕末太陽傳』も、公開当年はキネ旬4位だった。

【CDジャーナル 2007年12月号掲載】