Shota’s Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ

 家族愛、個性、夢の追求、自分らしさ──世に溢れるそんな“薄っぺらな良識”を嗤い飛ばして皮肉った一作。最近流行の“本当の自分を探して、結局不治の病でお涙頂戴”なんて話に辟易している人には、きっと痛快。

 物語は、東京に住む女優志望の姉・澄伽(佐藤江梨子)が、両親の葬儀のため僻地の村に帰ってきたことから始まる。澄伽はワガママでプライドが高いだけの勘違い女。対照的に気弱でおとなしい妹・清深(佐津川愛美)は、姉が帰ってくるというだけで恐怖心から喘息の発作を起こすほど。実は4年前、姉の傲慢な姿をホラー・マンガに仕立てて雑誌に採用され、村中の笑いものにした過去があるのだ。他に家にいるのは血の繋がらない兄・宍道永瀬正敏)と、結婚相談所の紹介で結婚したばかりの妻・待子(永作博美)。澄伽の帰省を機に、一家の内側に潜んでいた軋轢が浮かび上がる──姉は妹を執拗にいたぶり、兄は嫁に暴力をふるう。愛情の形がみんなイビツで、あるべきセックスがなかったり、あるべきでないセックスがあったり。

 と、筋だけ追えばかなり陰湿・陰惨な話であるにも関わらず、まるでコメディのようにカラッと楽しめるのは、登場人物が揃いも揃って図太いから。“心配しなくても大丈夫、こいつら強く生きていくはず!”と思わせる。

 キャラが分かりやすい姉妹の陰に隠れがちだが、実は人としての壊れっぷりは、永作演じる兄嫁が一番ひどい。“生い立ちが不幸すぎて何でも明るく受け入れる善人、だからこそ人をイラッとさせる”という難しい役どころを静かに的確に演じ、可笑しくて怖い。

 日本映画なんて9割5分はつまんないのに、たまにあるこうした“ちゃんと面白い作品”が、なんで話題にもならずにくすぶってるのだろう。2007年のカンヌ映画祭ではそれなりに評価されていたが、メディアはみんな松本人志の『大日本人』に行ってしまった。もったいない。

【CDジャーナル 2008年03月号掲載】