Shota’s Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

Mr.ブルックス ~完璧なる殺人鬼~

 身近に何人か、重いアルコール中毒の友人がいる。彼らは一様に賢く、飲んでいないときはつねに葛藤し、酒を憎み、自分をも憎んでいるのに、一滴の酒を口にしたとたんに普段の人格は消え失せ、倒れるまで飲み続ける。金を使い果たしても、誰かを傷つけても、あらゆる策を弄して酒を手に入れる。そして酔いが冷めたとき、また自分を憎む。もとが賢いだけに、その苦悩は深く哀しい。

 本作で脚本と監督を手がけたブルース・A・エバンスの近くにも、そんな人間がいたに違いない。あるとき彼の頭の中に浮かんだのは、「この世でもっとも恐ろしい中毒症はなんだろう?」という疑問だった。彼が出したその答えは、“殺人依存症”──そしてこの精緻なサイコ・スリラーが生まれた。

 主人公アール・ブルックスは、実業家として成功し、美しい妻と娘に恵まれた名士。だが彼は、生まれながらの殺人中毒者でもあった──何人もの人を殺し、その死体で芸術的な写真を撮ることに悦びをおぼえる。手口も緻密で、証拠は一切残さない。普段は苦心してその欲求を抑え、過去を懺悔し、二度としないと誓うのだが、いつも心の隅には「また殺っちまえよ」という別の自分がいる──。

 数々の映画で“偉大な英雄”を演じてきたケビン・コスナーが本作で初めて悪役、しかも善良な名士と猟奇殺人者という二面性のある難しい役どころに挑んだ。また鋭い勘と執着心で事件を追い続ける女刑事役にデミ・ムーア、主人公の心の闇の象徴としてオスカー俳優のウィリアム・ハートを起用、脇役とはいえないほどの存在感を放つ。

 切り裂きジャックレクター博士など、人は何故か“猟奇殺人”を恐れつつ、その犯人の心情に興味を抱く。この物語には主人公を含め3人の“天性の殺人者”が出てくるが、その3人目、まだ若く未熟な殺人鬼のその後が知りたい。続編が数本は作れそうな手堅い一作である。

【CDジャーナル 2008年06月号掲載】