Shota’s Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

LIVE! 清水ミチコのお楽しみ会“リップサービス”

_______________________________________________________
 モノマネを軸にしたお笑いをこっそりと、届く人にだけ届くように地味に提供し続け、昨年デビュー20周年を迎えた清水ミチコ。テレビでの彼女の“無難な顔”しか知らない人は、もったいない。変幻自在の声帯と得意のピアノを武器に、満面の笑みで毒気を放つ彼女の本領は、CDやライヴの中でこそ発揮される。デビュー20周年を記念したライヴ・ツアーがDVD化される彼女に話を聞いた。
_______________________________________________________

 87年に『笑っていいとも!』のワン・コーナーで楠田枝里子になりきった清水ミチコの声を聞いたときの衝撃は大きかった。当時も今も多い“定番化した”“モノマネのモノマネ”ではなく、ほかの誰もがやっていない人を選んで演じる。しかもユーミン矢野顕子桃井かおりなど、本人が憑依したかのようなおそるべき激似レベル。「私、ホントいうと、自分がモノマネやってる気がしないんですよ。子どもの頃から、すごく好きな人を見たら、どうしても本人に近づきたいというか、マネじゃなくていっそ本人に“なりきって”しまいたくなるんです。だから私がモノマネするのは全部大好きな人ばかり」と言う彼女だが、大好きなわりには、そこにはかなりの毒気とシニカルな笑いがある。“ついつい猥褻な言葉が出てくる杉本彩”や“本当は腹黒い山口もえ”など、生き写しの声色で、本人が言いそうな、でも絶対言うはずがないセリフを口にする。

「飛騨高山の育ちなんですが、その流れを汲んでるのかな。飛騨の人間って、ちょっと皮肉っぽいことを真顔で素朴に、ボソッと小さな声で言うんですよね」

 そんな彼女が皮肉や毒気を笑いに変換する際に利用するのが、音楽である。実家はジャズ喫茶を営み、小さなころからピアノが大好きだった。「学生のとき、よく体育館に忍び込んで一人でグランドピアノを弾いてました。気持ちいいのよー! 誰もいないのに、観客席に向かってお辞儀して。今思うと危ない人だよね」と笑って見せるが、その素養は芸に活かされ、山口百恵の新曲(!)を勝手に発表したり、さまざまなミュージシャンのクセを凝縮し、“○○の作曲法”というパロディ曲に仕立てて茶化したり。

「ルーツはやっぱりタモリさん。ピアノの白鍵だけを使ったら誰でもチック・コリア風に弾けるっていうネタがあって、そういう音楽的な発見を元にしたネタがおもしろくて大好きでした。あと、やっぱり『スネークマンショー』。冗談と音楽の融合みたいなアルバムで、すごくかっこいいな、と」

 音楽的素養はモノマネだけに使われるのではなく、ライヴではよく“2つの曲を同時に弾く”“ドだけでジャズを弾く”といったピアノを使う小ネタが披露される。そんなときの清水ミチコは、心底楽しそう。

“お笑い”と“音楽”の両方に通ずる彼女は、「私、大勢の人の中では光らないタイプだし」と引っ込み思案なことを強調しつつ、その交流も異色だ。“心清き女ブサイク芸人会”と称して女芸人らと集って遊ぶ一方で、「最近毎晩(ジャズ・ピアニストの)上原ひろみさんがうちに遊びに来てるんですよ、ピアノを弾きに。無理して防音室つくってよかったー!」と、ジャズ・ファン垂涎のことをサラッと言う。ときどき一緒にカラオケに行くというメンツを聞いても、平井堅椎名林檎aiko、一青窃、MISIAといった豪華ミュージシャンに三谷幸喜関根勤藤井隆らの異業種人脈がふつうに交ざる(お金払うからそのカラオケ、見学させてほしい!!)。

「最近はライヴに業界の人がたくさん来てくれるようになって、嬉しいです」と言う彼女にファンの層をたずねると、「昔から老若男女まんべんなく来てくださってたんですが、そう、最近はね、男と女の中間層っていうか……すごく多くて(笑)」と、新宿二丁目界隈での人気が高いことに苦笑い。

「ゲイの人って、ユーミンさんとか松田聖子さんとか、どこか男気がある女性が好きでしょ。でもね、私のライヴに来たあと、“前から2列目の左から4番目に座ってたイケメン、誰!?”なんて、みんなネットで盛り上がってるんですって。けしからん! 私を見なさい(笑)!」

 ゲイが多いかどうかはべつとして(ライヴ会場、たしかに、オネエさんだらけでしたが)、清水ミチコの芸が“通好み”であることは間違いない。それは彼女が通ウケを狙っているからではなく、単に彼女自身がおもしろいと思うことを、真剣にふざけてやっているからである。“ユーミンがロシア人スタッフを紹介するマネ”なんて、分かる人にしか分からないのに! フランス語の名曲(フランソワーズ・アルディさよならを教えて』)を流暢に歌い始めたかと思えば、歌詞が全部“九九”だったり(小学二年生の宿敵、あの九九です)。開演前の注意事項説明も、終了後のアナウンスも、使える機会は全部つかって力一杯悪ふざけ。それが清水ミチコである。

 そんな“自分大好き”感を隠さないのが魅力の彼女に、意地悪く、なにか憂うようなことがあるかを聞いてみた。

「ホントはそんなにピアノも歌もうまくないんですよ、私。でもそれがちょうどいいヘタウマ加減になって、笑ってもらえてるのかな。あと、最近の悩みは、安藤裕子さんとか、みんな歌がうますぎることね。うますぎると、マネしても“すげー”ってなるだけで、笑いにはならないのよ。もうちょっとヘタクソな人が出てくると、私の芸も伸びるんだけど(笑)」 

 そして最後に、「やっぱり音楽って、ストレス解消を通り越して“あ、生きててよかった”って感覚になるんですよね。聴いていても演じていても。それに、やっぱりウケると楽しいし、嬉しい。だからこんなこと20年も続けています」

 清水ミチコ、間違いなく、生まれながらの“冗談音楽”のプロである。

【CDジャーナル 2008年07月号掲載】