Shota’s Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

つぐない

 残酷な物語である。

 1930年代の英国。庭園に囲まれた大きな屋敷で家族とともにくらす姉妹がいた。美しく気高く成長した姉・セシーリアは、自分の胸の中に小さな恋心が芽生え始めていることに気づく。相手は庭師の息子で、幼なじみのロビー。だが身分違いの恋はまだ始まってもいないし、始めるべきでもない。彼女の妹、ブラウニーは、小説家志望。物語を想像し、つくりだす才能があった。ある週末妹は、姉とロビーが庭で口論しているのをのぞき見る。また、二人が図書室でぎこちない抱擁をしている場面も目にし、さらにロビーが綴った卑猥な手紙を盗み読む。本来、当事者の二人にとっては恋のきかっけとなるはずだったいくつかの出来事は、幼い妹の目には別のものに映った。少女らしい潔癖感と無知、そして妄想。彼女はロビーを“色情狂”だと決めつける。そしてある夜、身近で起こった強姦事件──暗闇の中でそれを目撃したブライオニーは、ためらいなくロビーが犯人だと証言する。反論の甲斐なく監獄に送られる青年。出所した後は、兵士として悲惨な戦場に駆り出され、セシーリアはただ彼の帰りを待ち続ける──。

 イギリス本国では150万部を売り上げたブッカー賞作家イアン・マキューアンの長編小説を、『プライドと偏見』のジョー・ライト監督が精緻な筆致で映像化。戦前の庭園生活の美しさはもとより、ドビュッシーの流れる戦争のシーンも、撤退を待つ数千の兵士たちの表情を5分間もの長回しで撮った場面も、“美しい”と目に映る。もちろん“幸福な”ラストシーンの美しさは格別。

 実は『つぐない』というタイトルに反し、“人にはつぐないきれないことがある”というのがこの物語に込められたメッセージだ。つぐなえないと分かっていても、それでもつぐなおうとして苦しみながら生き続けろ、と。もう一度言うが、美しく、残酷な物語である。

【CDジャーナル 2008年10月号掲載】