Shota’s Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

バッタもん / 清水ミチコ

 「音楽誌で清水ミチコ?」と思う人がいるとすれば、テレビでの“無難な”彼女しか見たことがないのだろう。彼女の芸に含まれる音楽的要素は、プロも一目置くところ。2009年2月には清水がモノマネの定番とするあの矢野顕子が、自らのライヴに清水を招き、ピアノと歌で共演した。

「4曲ぐらい一緒にやらせていただいたんですが、もう感激と緊張とで、頭の中が真っ白でした。矢野さんといえば学生時代からの憧れの人で――憧れすぎてモノマネするようになったぐらいですから」

 その共演のうち1曲は、3年ぶりの新作『バッタもん』にも収録される。「緊張しすぎてピアノのミス・タッチが多くて……」と本人は言うが、CDでは歌声もピアノも、どちらが本人でどちらがモノマネ(清水)かわからないほど。

「矢野さんファンのお客さんに怒られないか心配だったんですけど、まあ私がゲストで出る日のチケットを買ったってことは、お客さんもそれなりに諦めてくれているだろうと(笑)」

 新作ではさらに、台湾語の楽曲で一青窈とのコラボも実現。あの天下の歌姫をつかまえて、歌の共演ではなく、台湾語の翻訳と発音の先生になってもらったのだとか。

「もったいない使い方ですよね。一青さんがものすごくお笑い好きだったから、つい頼みやすくて。もったいないと言えば、一青さんのお姉さん(舞台女優の一青妙)も参加してくださったんですよ、台湾語のアナウンサー役で。でも私と声質が似てるから、こうして言わないと誰も気づかないかもしれない……(笑)」

 ライヴではお馴染みだった「プカプカ」もCDでは初収録。フォーク・シンガー西岡恭蔵の代表曲で、曽我部恵一原田芳雄桑田佳祐奥田民生福山雅治らそうそうたる顔ぶれが愛し、カヴァーしてきた名曲。これを清水ミチコは一人で、桃井かおり井上陽水大竹しのぶ吉田日出子になりきって歌い上げる。大竹しのぶの声で「あたい、男やめないわ」と歌うなど、きっちり元の歌詞とリンクしているようなしていないような……怒られないのだろうか? 「誉め言葉だから大丈夫です(キッパリ)」

 また、ほかにもタンゴに声楽曲、ジャズ、R&B、童謡と、バラエティにとんだサウンドを収録。しかもタンゴにはオネエ・タレントの名が朗々と織り込まれ、「変な風になって」という声楽曲はまるで誰かの新曲のよう。『バッタもん』というアルバム名でわかるとおり、清水ミチコ、相変わらず真顔でふざけていて――再び心配になる。怒られないのだろうか?

「怒られません(再びキッパリ)。なぜならこの曲はモノマネじゃなくて、全部私のオリジナルですから。誰かのモノマネに聞こえるとしても、それはたまたまの偶然です」

 なので、このアルバムを聴いて元祖シスター・ボーイの御大や某有名テノール歌手を連想しても、気を利かせて御本人に報告したりしてはいけない。

 音楽以外にも、コント形式でのモノマネを多数収録。大山のぶ代のドラエもんへのトリビュート精神あふれるオリジナル・キャラ“バッタもん”が山口もえに化けたり、杉本彩になったり。さらに、ユーミ(ユーミに非ず)のラジオ番組に清水ミチコが出演し、“清水がユーミソのモノマネをし、ユーミソが清水のモノマネをする、というのを全部清水が演じる」など、まるで無間地獄のようなネタは圧巻。

「こんなにスラスラとアルバムができたのは初めて。デモ版から一気にやれた感じで、怖いくらいなんです。2009年は本当にいい1年で、矢野さんや一青さんと一緒に仕事できたし……私、もうすぐ死ぬんじゃないかしら(笑)」

 本作には登場しないが、これまた彼女のモノマネの定番、綾戸智絵とテレビ番組で共演するのを観たことがある。ここでも“綾戸をマネする清水をマネする、本物の綾戸智絵”というセッションが炸裂、失笑せずにはいられなかった。清水の場合、ほかのモノマネ芸人のいわゆる“ご本人と一緒”とはまったく趣が異なり、“互いが相手をリスペクトしている”という雰囲気さえ漂うのだ。

「私がモノマネする対象というのは、声が似せやすいとかじゃなくて、好きな人かどうかが一番なんです。何かの拍子に感銘を受けたりすると、その人になりきってしまいたくなって」

 たまに、まるで似ていないモノマネや、彼女以外誰も知らないようなネタをゴリ押ししてくるのも特徴。宇多田ヒカルとか、先祖の数を連綿と数え上げる子守歌とか……。

「冒険心が大事なの! あとね、モノマネは、やってるうちに似てくるってのもあるからね……優しい目で見守ってよ(笑)!」  お笑いと音楽を溶き合わせたような彼女のCDは、これで8枚目。2010年には全国でのライヴ・ツアーを敢行する。

 自宅ではスタインウェイのピアノを愛で、音楽仲間に囲まれて暮らす彼女は、ただの女芸人ではない。変化自在の声帯を楽器として使う、稀代の音楽家でもある――と言うと、本人は「そんなすごいもんじゃないです、ただふざけてるだけ」と謙遜するが、CDを聴けばわかる、実際、そうなのである。一本筋の通った“バッタもん”なのだ。

【CDジャーナル 2010年01月号掲載】