Shota’s Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

イングロリアス・バスターズ

あるナチス大佐と彼を恨むユダヤ人女性、ナチ壊滅を狙う米特殊部隊の三者を描く。タランティーノのふたつのクセが噴出。ひとつは“細部への執拗なこだわり”。第二次大戦中のフランスを舞台とし、当時の街の重い空気を念入りに再現。欧州各国から手練の役者を集め、独仏英語を多元的に重ねて物語の深みを増す。また『ニュー・シネマ・パラダイス』や『追想』『サボタージュ』など、場面や音楽がことごとく古い映画の引用となっているのも、監督のフェチぶりの表れだ。そして監督のもうひとつのクセ、“気っぷのいい破壊指向”。それまで丹念に積み重ねてきたものを、最後には自ら木っ端微塵にブッ壊す! 細部への執着はどこへやら、一番大きな史実を無視しても平気。さすが。パッケージや予告編ではブラピ中心の戦争活劇に見えるが、これは販促のためのミスリード。真の主役は小賢しいナチの大佐で、各種男優賞を大量に獲得。そして中身は活劇ではなく、裏のある会話の妙を楽しむ心理劇だ。

【CDジャーナル 2010年07月号掲載】