Shota’s Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

シングルマン

グッチやイヴ・サンローランでファッション界に名を馳せた偉才トム・フォードが、初めて映画監督に挑む。業界の例に漏れずゲイである彼が描くのはやはりゲイの大学教授で、その生活は傍目には知的で優雅。しかし今、彼の中にあるのは虚空のみ。長年連れ添った愛人を事故で失ったからだ。孤独や葛藤を表に出すのは彼の主義ではない。静かに絶望的な生活を送っていたある日、一人の美しい青年が近寄ってくるが、彼の孤独は埋まらない──その日彼は死のうとしていたのだ、自らの美意識にのっとって。そう、これは“美意識”を鑑賞し、味わうための映画。衣装、建築、色彩、音楽、すべてが完全に制御されている。審美眼は人それぞれなので、“とあるオッサンのしょぼくれた一日”としか感じない人もいるだろうが──個人的には主人公が住むミッド・センチュリー期の家(F・L・ライトの弟子のジョン・ロートナーによる実在の建築)だけでも観た価値があった。美しい。

【CDジャーナル 2011年03月号掲載】