Shota’s Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

J・エドガー

J・エドガー”という名に覚えがなくとも、“フーバー長官”なら聞いたことがあろう。48年間にわたりFBIのトップに君臨し、歴代の大統領さえもが怖れた男。彼は政敵や犯罪者だけでなく、大統領やその夫人の個人的な醜聞をも調査して機密ファイルに記録、いざというときの自己保身に利用した。だが、彼自身にもある噂があった。彼は、じつは同性愛者なのでは——根強いその噂を、本作は真偽判定することなく取り入れている。強調も無視もしない。彼が生涯信頼していたのは母親以外にはたった2人。女性秘書(ナオミ・ワッツが好演)には機密ファイルを託し、腹心の男性部下とは日々食事をともにし、キスをされ、愛を口にする(←十分にゲイです)。
女秘書に託された機密ファイルが現存したならば、彼の正体、彼が善なのか悪なのかも、もう少し判然としただろう。だが同時に、米国がひっくり返るような裏事情がつまびらかになり、たぶん彼個人の善悪などどうでもよくなる。

【CDジャーナル 2012年08月号掲載】