Shota’s Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

夢売るふたり

『ゆれる』『ディア・ドクター』に続く、西川美和監督の長編4作目。相変わらず人を見る目線が柔らかくも精緻。特に松たか子の“女性特有の目”の演技や、生理用品を使ったさりげない演出などは、女性監督ならでは。その松と阿部サダヲという手練れ役者二人が演じるのは、慎ましくとも賑やかな小料理屋の夫婦。しかし店が火事で全焼したことから、その生活は暗転する──かにみえて、ここからが監督の真骨頂。二人は新店の開業資金を貯めるため、結婚詐欺を始めるのだ、しかも妻の先導で。気弱で実直な夫が都会の疲れた女たちを癒やす才能を持っていることに、妻は気付いていた。冴えないデリヘル嬢。不倫中の女。女として扱われない重量挙げ選手。子持ちの若い未亡人。主人公を含め出てくる人間がみな善人で、だからこそ抱えている哀しみが胸に染み、それが弾けてコメディとなる。個人的には、CMタレントの印象が強かった田中麗奈が、気づけば味のある女優に育っていたのが大収穫。

【CDジャーナル 2013年032月号掲載】