Shota’s Movie Review

2003年から「CDジャーナル」誌(音楽出版社 刊)に掲載されてきた映画レビューを再録しています。

鍵泥棒のメソッド

運命じゃない人』『アフタースクール』で“大ドンデン返し”の大技を見せた内田けんじ監督・脚本の、期待の新作。しかし彼の特技は大ぶりの投げ技だけでなく、地味で目立たない小技も巧い。人物の心境や状況が、ちょっとしたきっかけでどんどんズレていき、このズレの重なりで、物語はとんでもない方向に跳びはねる。主人公は、自殺を考えている極貧役者(堺雅人)と、風呂屋で転んで記憶をなくした一流の殺し屋(香川照之)。極貧役者が咄嗟にロッカーの鍵を取り替え、二人の生活そのものが入れ替わってしまうのだが、まずは律儀に役者道を目指す殺し屋の姿が可笑しい。さらに一人、静かに物語を掻き乱すのが、相手未定のまま結婚を決めた女(広末涼子)。立場も思惑も違うこの三人がみな良心的に接し合うにつれ、状況が絶妙にズレていき──。惜しむらくは、やはり小技とともに派手な大技も見たく、『アフタースクール』並のドンデン返しがあれば大満足だった。

【CDジャーナル 2013年05月号掲載】